No.9:わすれもの / グレープ

 WARNER-PIONEER L-8043E/ LP 1974

私が中学に入った頃、オーディオ類にはまったく縁の無かった我が家にあったのは、ターンテーブルがドーナッツ盤サイズの安物レコードプレーヤーだった。それをテレビの音声入力端子に接続し、数枚のドーナッツ盤といくつかのソノシートを、テレビのスピーカーで聞いていた記憶がある。

それでも、何故か田端義雄のSP盤なんてのがあったりしたので、それを聞くために、78回転など付いていないプレーヤーで、盤の半分ほどははみ出している状態のターンテーブルを手でくるくる回して音を出していた。
ターンテーブルを手回しして音を出すことは昨今当たり前の手法だけれど、正調で聞こうとしていた当時の私、思えば醜いワウフラッター音を嬉々として楽しんでいたように思う。

それからしばらくすると、FMラジオをよく聴くようになり、その流れでFM番組ガイド雑誌を読むようになった。その雑誌にはオーディオコーナーも載っていて、マッキントッシュのアンプやタンノイのスピーカーの紹介写真を羨望の眼差しで眺めていたっけ。きっとその頃から「もっといい音で聞きたい」という欲求が芽生えはじめていたのだろう。

中学卒業とともに念願が叶い、高校入学祝いという名目でオーディオ3点セットの購入資金を貰ったのが事の始まり。
雑誌情報を集め、自分でセレクトしたのはYAMAHAのレコードプレーヤYP-D7、LAXMANのプリメインアンプ、VICTERのスピーカーSX-�。秋葉原を1日歩き回って、この目で操作性を確認し、値切り交渉をして買ってきた。いずれも当時は名機と讃えられたコンポーネントで、重量が14kgもあるレコードプレーヤーは現在も現役。

ハードが配達され、部屋にセッティングした翌日、再び秋葉原に出向き、数枚のLPレコードを買った。その頃、高校でフォークソング部に入った私。何の縁だか分からぬが、そこにいた「おっぴん」とやらが好んでいたフォークデュオがいた。それが「グレープ」だった。

このアルバムを聞いてみたら、違和感の無いメロディとアレンジだった。ラストに収録されている曲「あこがれ」が、チャイコフスキーのピアノコンチェルト風の展開だったことも、オーケストラ好きには馴染みやすかったのかもしてない。
それと、クレジットに曲を作った背景のコメントが添えられていて、歌詞の意味を理解しやすくしているのも良い(さだまさしのアルバムは、以降も各曲のコメントが添えられている)

違和感を感じない。
音楽を始めた頃に、そんなアルバムと出会えたのが今日まで続く活動の源流なのだろうか?

それと、このアルバムのもう一つの使い方。
1曲目は超有名曲「精霊流し」。このイントロ等には花火等の実音がかぶせられている。そして、バイオリンの響き。

そう、オーディオチェックレコードとしても実に利用価値があった。
花火の音を花火らしく、バイオリンの音をバイオリンらしく、そう聞きたいがため、スピーカーの角度やら。敷物やら、手短にできる調整を色々試みたりして。
今にして思えば他愛のないことだけれど 、当時は真剣に音響改善に取り組み、オーディオ熱をヒートアップさせた罪作りなアルバムでもある。