No.14:The 吉原 / 栄芝×近藤等則

 VICTER ENTERTAINMENT VICL-61155 / CD 2003

宝くじ、競馬、競輪、競艇等にはまるで興味のない私だけれど、コラボレート物のCDを買う時はある意味でギャンブルかもしれない。

このアルバムの主役、栄芝師匠は端唄の栄芝流家元で、小唄、地唄、大和楽でも芸名を持つ、いわば邦楽界のマルチタレント。片や近藤等則 は京大工学部からフリージャズ界に身を投げ、今はヨーロッパを活動拠点とする異端なトランペッター。この二人、はたしてどんな音を作り出すのだろうか?

興味津々、ワクワクしてCDをプレーヤにセットし、アンプのボリュームを上げる。思ったよりスローな導入部はエアー感たっぷりのシンセサイザー。そこにディレイを聴かせた三味線が被さり、打ち込みの細かく複雑なリズムがフェードインした後、栄芝ねえさんの端唄が流れ始める。そして、合いの手の様にトランペットがからむ。

異ジャンルという違和感なんぞまったく無く、グルーブ感たっぷりで妙に艶っぽい。そりゃそうだ、 収録曲はすべて恋歌なんだ。それも、花魁の恋物語

例えば、最後の曲「氷面鏡」の歌詞

  氷面鏡 とけて寝る夜の その移り香に
  ええ 匂いかさねる ねやの梅

氷のように凍てついた男女の不仲が、ふとした情愛でとけて香りをかさねる。(氷が溶けるのと、帯ひもが解けるのをかけている)
そして、夜に溶けた梅(遊郭の女)は、男が去った朝には再び氷となる。

身分階級、家柄が存在した時代の恋歌は、今と比較にならないほど切ないものなのだろうね。まあ、考えてみれば、端唄は江戸時代の庶民の流行歌、今でいえばポップスだもの。100年以上を経て淘汰され残っている唄ってのは、それなりに後の人の心を揺らしてきたのじゃないかな。

そんな歌詞を可愛らしく、かつ艶っぽく唄う栄芝師匠には最近の女性シンガーが無くしてしまったものがあるような気がする。そして、拍子で割り切れるリズムに、拍子で割り切れない端唄の微妙な間合いが殺されていない新鮮さに、シンセと妙に合う三味線の音色。

このアルバム、小唄をとりいれたいと思っていた近藤氏が、知人の紹介で観た栄芝師匠の演奏会に感激して、自身初めて他のミュージシャンをプロデュースしたとのことです。彼自身、アルバムクレジットの中で「端唄・小唄の粋、艶っぽさに比べればマドンナはガキ」と言い放っておりますわ(笑)

これには私も同感!
というわけで、私的には今年のベストアルバムであります(拍手)