No.32:EIGHT SEASONS / ギドン・クレーメル&クレメラータ・パルティカ

 79568-2 NONESUCH/ CD 2000

チャ〜ッツ、チャ〜ッツ、チャッツ・チャチャチャァァ〜、
「下校の時間になりました・・・・・・・」

学校で毎日のように聞いていたのが、ヴィバルディの協奏曲集「四季」の1曲目、「春」の冒頭部分でした。曲名はわからなくとも、メロディを聞けば誰もが聞いたことがある旋律です。

このアルバムは、その「四季」を収録したものですが、「エイト・シーズンズ」というタイトルを直訳すれば「八季」です。そう、このアルバムは「ふたつの四季」による組曲なんです。

そのひとつは、ご存じヴィバルディによるもの、そしてもうひとつは、ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」でして、単にこの2曲のカップリングではなく、ヴィバルディとピアソラを交互に演奏しているんですねえ。(ちなみに、ピアソラという作曲家は、ちょっと前、サントリー「ローヤル」のCMでチェリスト「ヨー・ヨ・マ」が弾いた「リベルタンゴ」という曲で、ちょっとしたブームになりましたね)

最初は興味本位で聞いてみたんだけれど、これがねえ、不思議と違和感無いんですわ!。
曲の発表はヴィバルディが1725年、ピアソラが1968年で、その間実に2世紀半、243年の時間を飛び越えて、ふたつの曲がひとつになった!。・・・というか、原曲を知らない人が聞けば、一連の曲に聞こえることでしょう。そのくらいシックリ馴染んでいる。

どちらの「四季」もメイン楽器はヴァイオリンです。
ギドン・ クレーメルというヴァイオリニストは、私に言わせれば「自由奔放な音楽家」のひとりでして、既成概念に捕らわれず、オッ!と思うような新たな試みに次々とトライしてくれるステキなアーティストです。
もちろん、オリジナル?のヴィバルディ「四季」も録音しているし、バッハやベートーベンをはじめとする定番曲の録音も数多くあるけれど、近代〜現代の曲を積極的に取り上げ、時にはこのような企画でより馴染みやすい曲にリニューアルさせたりして、そんな作業を楽しんでいるかのようです。
そして、一方で若手音楽家の育成も熱心で、このアルバムで共演している「クレメラータ・パルティカ」という室内オーケストラを創設したり、まあ、とにかく精力的ですわ。

このアルバムを聞いて面白いなあと思ったのは、彼のヴァイオリンの音色というか、ニュアンスの変化でして、ヴィバルディの部分よりも、ピアソラの部分の方が楽しくて、かつ艶っぽく聞こえてくるんだよねえ。
クレーメル自身「ピアソラは自分の中にある夢、理想というものに近づこうとして一生戦った人だけれど、そのエネルギーが私をふるい立たせ、彼の力が熱病のようにとりついてきたんだ」と発言しているから、その分、思い入れの強さが反映されているのだろうか?。

本来、思い入れの強さの違いを聞き手が感じるようではいけないのだろうけれど、それまで機械的と感じていたクレーメルの音色が、このアルバムを聞いたことでコロッと一転し、急に情緒的に聞こえてきたんだから面白いよね。
まあ、私の聞く耳も気分次第でいい加減なものだけれど、言い方を変えれば「奏者の考え方や人柄を知ると、聞き手の感じ方が変わる」ってことなんだろうかね。楽器や演奏技術は違えども、同じ奏者として(比べるなっつうの!)はメモメモってところだよ。