No.33:ウポポサンケ / 安東ウメ子

 ChikarStudio CKR-0106 / CD 2003

ダイバーである私は、世界で3本の指に数えられる沖縄の海(残念ながら本島は荒れてきているようですが)に興味も多いのですが、いざ行くとなると海外に飛んでしまいます。でも、音楽的には沖縄出身のミュージシャンが脚光を浴びたことで、次第に島唄に代表される琉球音楽が次々とリリースされ、ステキなアルバムが入手できるようになって喜んでいます。

ただ、特有の音階を持つ琉球音楽を民族音楽ととらえると、ちょっと待ってよ、こちらもありますよ!言いたくなってしまうのは、やはりへそ曲がりなのでしょうか。

文化的に脚光を浴びている琉球に対し、同じ日本に住むもう一極の民族文化、アイヌは徐々に歴史から消えてしまいそうな雰囲気です。中世の昔から近代に入るまで「征夷」という言葉があったように、アイヌ民族にとって大和民族は侵略者なのかもしれません。(不勉強な私ゆえこの辺で止めておきます)

アイヌ民族はかつて北国の大自然の中で自然をカムイ(神)として考え、その自然の法則の中で暮らしていたそうです。歌はカムイへの祈りや願い、まじないなどから発生したといわれていますし、舞踊は動物や植物などのカムイの仕草をまねたり、なにかのまじないの動作が固定化して伝えられたと考えられ、歌や舞踊の場は、人間どうしの交流の場とともに人間とカムイとの交流の場でもあったとのことです。

「ウポポ」とは「座り歌」のこと。
安東ウメ子』はこの「ウポポ」の第一人者と言われ、このアルバムが2枚目となります。
また、アレンジャー&プロデューサーの『オキ』はアイヌ楽器「トンコリ」の第一人者で、ニューヨークフィルとも競演したことがあります。

アイヌ音楽には「労働歌」が多いそうですが、基本的にはみんなで歌って踊ろうというスタンス。主たる楽器はトンコリという5弦琴とパーカッションで、曲的にはシンプルな歌詞で同じフレーズの繰り返し。トンコリは5弦でありながら開放弦しか使わないため、5つの音の組み合わせで曲を構築するしかない。まあ、パーカッションとしてとらえれば5つも音色を出せるんだ、という解釈になりますね。

とてもシンプルな曲と楽器が奏でる音楽は、単調といえば単調なので、グルーブ感が生命線。このアルバムはそんなことを感じさせてくれますが、実はこれを感じるまでが容易でない。
私もねぇ、最初に聞いたとき、退屈な音楽だなーって。
でもね、あるときホゲ〜としながら聞いていたら、カラダのどこかがリズムを取りだしたんだよね。カムイと会話するリズムだものね、聞き手の心にゆとりがないとだめなんだね。
そんな意味では、今流行のスローライフにぴったりなのかもしれませんね。

実は安東ウメ子さん、今年7月に71才で亡くなられたんですよ。一部だけれどもアルバムが着目され、アイヌ音楽にとってはこれからという時期だっただけにに残念です。ご冥福を祈ります。なお、先月、松山千春が発表した新曲には、彼女を偲んで、イントロに彼女の歌声が使われているそうです。