No.39:浅草オペラ 華ひらく大正浪漫 / オムニバス

 山野楽器 YMCD-1056 / CD 1998

子供の頃、TVで見た歌番組に、直立不動の姿勢で、如何に律儀そうに歌うおじいさんが出ていた記憶があります。それが、このジャケットの右側の人「田谷力三」さんでした。

自分の家が浅草に近いこともあり、六区には小さいときから遊びに出かけてましたが、その場所が大正時代に、当時のムーブメントの発信地だったと知るのはずいぶん後のこと。クラシックを聞くようになってからでした。

浅草オペラの全盛期は大正7〜12年あたりだそうです。
資料によれば、客席数700〜800の浅草オペラ専門館「金竜館」の入場者数が、ブームに翳りがみえはじめた大正11年で512,471人だったそうです。1日2回興行で休み無しとしても、単純計算すれば1年中満席です。

企画の目新しさももちろん、女性出演者の過激な衣装が人気を呼んだようです。まあ、過激な衣装といってもジャケット写真の感のようで、当時はストッキング姿を見せるだけでも大騒ぎの時代。今時の前衛的演出のオペラはトップレスありですから、ずいぶん様子が異なったことでしょう。(当時の人が、現代女性の服装を見たら卒倒するかもしれませんね)

古い録音で、多くのノイズの後ろから聞こえてくるのは日本語の歌詞と台詞。
このアルバムを聞いていると、先人たちの西洋音楽に対する情熱が感じられます。

驚くべきは文明開化、明治元年(1868年)から僅か50年程度の時代だってことです。収録曲からもわかるように、元ネタはビゼーオッフェンバック、スッペ等で、モーツワルト等のドイツやウィーンものは取り上げられていません。そして、永井荷風の詩を題材にしたオリジナルオペラも上演しています。このことからも、今の一般的イメージのオペラではなく、より気軽大衆演劇を目指していたことはこの音源からも伝わってきます。

民謡、長唄雅楽、歌舞伎等、音楽と演劇の下地はあったものの、オペラを輸入し、それを大衆向けにアレンジしてしまう。これって、工業製品と同じように、日本人が最も得意とする作業なのかもしてませんね。(これって、オリジナリティに欠けるってこと?)

この手のアルバムを手に取る人は少ないでしょう。
でも、こんな時代があって、その時代にチャレンジし、努力した多くの人達がいたということは知っておいて欲しいものです。
それと、こんな売れそうもないCDを販売してくれた山野楽器に感謝です。