No.42:ベートーベン 交響曲第5番&第7番 / カルロス・クライバー&ウィーンフィルハーモニー管弦楽団

 GRAMMOPON UCCG-7004 / CD 2002

ベートーベンの交響曲第5番と第7番のカップリングアルバムです。
第5番は通称『運命』、そう、冒頭の『ジャジャジャジャ〜ン』という主題が超有名ですね。

最近、クラシック音楽のオムニバスCDやらCD付き解説本を目にします。それらの内容をみると、有名どころの曲のオイシイ部分をかき集めた構成になっているようで、それが結構売れているらしいのです。
確かに、それをきっかけにクラシック音楽に深く接してくれればよいのですが、私にはどうも「知ったかぶりの増強剤」的な俗物に使われているような気がしてなりません。

「クラシックを解りやすく」という姿勢は大切だけれども、だからといって、曲の1部分のダイジェストを聞いただけでは本質的な事は何も伝わらないし、構成の面白さは理解できないと思います。

例えばこの『運命』。
冒頭の主題だけ知っていても、「ソソソミ〜、ファファファレ〜」って、それだけのこと。
運命という副題は本人が付けたわけでないし、そう呼ぶのは日本だけって、まあ、それだけのこと。

ベートーベンは何回運命の扉を叩いたでしょう?と、実際に『ジャジャジャジャ〜ン』が何回出て来るか数えたのは故山本直純さんですが、彼はこんなやり方で、この単純な主題から壮大なソナタ形式を構築してしまうベートーベンの偉大さを解説していましたっけ。

200年も前の曲が今でも頻繁に演奏され録音されている事実。
作曲者も作品も時間と共に淘汰されてきているわけで、現代に残っている曲は様々な時代の聴衆によって支持され続けてきた結果ということになると思います。
何故でしょう?

第5番の魅力は“運命”の動機をイメージさせつつ展開する第2楽章以降にあるのでは、と思います。第3楽章から切れ目なく第4楽章につながる展開などは、「あー、やっぱりこの人、天才だわ」と思ってしまいます。

それから、カップリングの第7番。
これはもう、リズムの玉手箱って感じで、ワクワクしながら聞いてしまいます。
高校の時、オーケストラの演奏会の無料招待券が余ったので、興味があるけれど聞いたことがないという人に譲ったことがあって、その時の演奏曲がこの第7番。招待券を譲った彼、翌日LPを買い込んで、すっかりハマッテしまったというほど。

ベートーベンに限らずクラシック系の楽曲ってのはメロディの宝庫だし、旋律のウラで奏でられる隠れ旋律は魅力的だし、和声とリズムは多彩で複雑だし、さらに演奏楽器の組み合わせの多様さと、それに伴う音色の多彩さとダイナミックレンジの広さ。まあ、とにかく音楽的には刺激たっぷり。だから次代に受け継がれるのでしょうね。

問題は構成が複雑なことと演奏時間が長いことでしょう。でも、これは避けて通れませんので、聞き手にある程度の忍耐が必要ですね。
それから、ひずみ系の音が無いことも入るかな。しかし、こればっかりはどうしようもないですね。

さてさて、このCDですが、昨年亡くなったクライバーが1974年と1975年にウィーンフィルを指揮して録音したもので、発売前から名盤だ!と騒がれました。強烈なカリスマ性を持った方らしいのですが、残念ながら生で演奏は聞いたことはありません。
最初は第5番と第7番、それぞれ単独で発売され、価格も3000円したのですが、それが1枚のCDに納められた上に1800円で再発売されたので、すぐ買いに走りました。

この曲の録音は数々あるし、私も数種類持っていますが、これはすばらしい演奏のひとつだと思います。私はクラシック系音楽を普段はBGMとして聞き流していることが多いけれど、このCDを聞いているといつのまにか座り直していますわ。クライバーの気というのでしょうか、録音現場の空気感ってのでしょうか、何か伝わってくるんですよねぇ。で、いつのまにかどんどんボリュームを上げてしまってるんですわ(笑)